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僧侶特集 #01 須磨寺 小池陽人 寺務長

お寺と出会うポータルサイト 「つなぐ寺」が特集する僧侶紹介シリーズ。 記念すべき第1回目は、真言宗須磨寺派大本山 小池 陽人寺務長です。



【プロフィール】


僧侶名:小池 陽人(こいけ・ようにん)

お寺:須磨寺(福祥寺)

所在地:兵庫県神戸市須磨区須磨寺町4丁目6-8

宗派:真言宗須磨寺派大本山

役職:寺務長


【紹介文】


「一緒に写真撮ってもらってもいいですか?」

歴史的な建造物が並ぶ須磨寺の境内を小池さんが歩くと、たびたびそんな声がかかる。

「もちろんです。きょうはどちらからいらしたんですか?」

「広島です」

「えー、広島ですか! 遠くからよくお参りくださいました」

YouTubeチャンネルを見たことをきっかけに小池さんに会おうと参拝に訪れる人が、きょうも須磨寺ににぎわいと笑顔をもたらしている。

「生きていくのが苦しくなった時、仏教にはヒントがある。1人でも多くの人に届けたい」。そんな思いから動画配信を始めて3年半。総再生回数は450万回を超えた。およそ200本の動画に込めた思いは、着実に多くの人たちの心にしみこんでいる。



 東京都八王子市の一般家庭で、4人きょうだいの末っ子として生まれた。「毎日晩ご飯の時、全員で一つの話題について話し合うような家族でした。でも一番幼いから何か言いたくてもうまく発言できないのが悔しかった」と振り返る。そんな幼少期の経験が「自分の思いを言葉にまとめて伝えたい」という強いモチベーションを育んだ。「小学校6年の時には代表委員(児童会長)に立候補し、中学校ではサッカー部のキャプテン、高校では同じくサッカー部で部長を務めました。とにかく言葉で人を引っ張ることに喜びを感じていたのです。とんでもなく目立ちたがり屋なんですよね」


 奈良県立大学で地域づくりを学び、卒業後には企業からの内定を断り、母方の実家である須磨寺で僧侶の道を歩むことを決めた。「お寺でも地域活性化に取り組める。いや、お寺だからこそ地域のつながりのためにできることがあるのではないかと思ったのです」。世界遺産・醍醐寺(京都市伏見区)での厳しい修行、四国八十八カ所での歩き遍路などを遂げ、2011年に須磨寺での日々が始まった。

 数年後、一つの取り組みを始めた。「檀信徒の方に自分の思いを知ってもらうにはどうしたらいいか」。先輩僧侶のアドバイスを参考に始めたのは、日々の思いを仏教に照らして2000文字ほどの文章にまとめること。「陽人の随想録」と名付けたその「ミニ法話」を毎月A4の用紙に印刷し、境内に置いたり、檀信徒に配ったりし始めた。

 それをきっかけに、転機が訪れた。小池さんの真摯に仏教と向き合う姿に感じ入ったウェブ制作会社の知人から「YouTubeで発信しないか」と提案されたのだ。最初はためらった。「まだまだ未熟な自分に何が発信できるのか」。しかし同時に「今の感覚でしか語れないことがある」とも考えた。さらに敬慕する弘法大師に思いを馳せ「もし弘法大師が生きていたなら、最新技術を駆使して多くの人に仏法を伝えたはず」。そう感じたことが背中を押した。


 法話は2~3ヶ月に1度、6本分をまとめて撮影し、2週間に1度の頻度でサイトに投稿する。なかなか話す内容が浮かばず「1週間くらい悩むことも」。それでもコツコツと続けるうちにメディアで取り上げられるようになり、再生回数も急増した。

 2019年には、宗派を超えた僧侶たちが法話を披露し合い「もう一度会いたいお坊さん」ナンバーワンを決める「H1法話グランプリ~エピソード・ZERO」を実行委員長として取り仕切るなど、法話を発信する活動を次々と打ち出す。

 しかし積極的に動けば動くほど、批判的な声が寄せられることもある。「自分の力不足を痛感することもあり、落ち込みました」

 そんな小池さんを支える一通の手紙がある。

 2020年1月、福井県のある高齢女性から届いたもの。2年前、生後9カ月の孫を突然死で失い、母親である娘さんを励ましつつも悲しみに暮れている、という内容だった。しかし女性はYouTubeで小池さんの法話を聴くようになり、「だんだん前が見え」、「娘家族も私も少しずつ笑えるようになった」というのです。「ありがたくて涙が出ました。自分のやって来たことは間違ってはいなかった。心の支えです」。手紙はいつも持ち歩くカバンに「お守り」として大切にしまっている。


 新型コロナウイルスに世界が席巻された2020年は、小池さんにとっても特別な年になった。参拝も控えるよう呼びかけざるを得ない状況となり、「お寺に何ができるのか」という問いを突きつけられたのだ。

 小池さんが出した答えの一つが「写経」だった。「普段とは違う生活で多くの人がストレスを感じ、家庭内暴力や子どもへの虐待が増えていると聞きました。少しでも『祈る』という時間を持つことが心の安定につながるのではないかと思ったのです」。4月、自宅での「写経」を呼びかける動画を配信し、お寺のHPに写経用紙のデータを載せて寺への郵送を呼びかけた。法話動画も、5月いっぱいまで毎日配信を続けた。「私自身も悩みながらでした。このような状況で、しかも毎日いったい何が話せるのか、正直しんどかった」。しかし反響は絶大だった。およそ2カ月で須磨寺には国内外から5000巻近くの写経が集まり、法話の再生回数も急増した。

 「仏教やお寺は、苦しい状況を変えたり不安を取り去ったりすることはできなくても、不安と共に生きる力になる。そう実感した日々でした」と振り返る。



 2020年夏には、法話以外の動画にも取り組み始めた。小池さんら僧侶が地元商店街を歩いてお店を紹介する「須磨寺散歩」のコーナーだ。

 「YouTubeをきっかけに全国からお参りに来られる方が増えました。せっかく須磨に来られる方たちに地域の魅力をもっと知っていただきたくて」。まず感じたのは、自分自身がいかに地域のことを知らなかったということ。逆に地域の人たちも、お寺のことをよく知らなかった。「これまではお寺で待っていただけだったと反省しました」。商店主たちとの交流も深まり、地域向けに小池さん解説の須磨寺ツアーも始まった。「こちらから動き出すことで、また一つ何かが動き出した感覚があります」


 経験を積み重ねるうちに「法話の内容だけでなく、自身を人間的にも成長させたい」と願うようになった。先輩や仲間の僧侶たちの法話を聴く機会も増え「法話というのは内容だけでなく、話す人の雰囲気や話し方、さらに人柄そのものを受け取ってもらっていると感じるようになりました」。例えばつらくて落ち込んでいるとき、法話の内容に関わりなく、話す人の姿や声だけでなぜか涙が込み上がってくるような感覚を覚えることがあった。「修行や勉強を重ねる中からにじみ出るものが確かにあります。法話は本当に奥が深い」


 動画配信に力を入れる小池さんだが、「一番良いのは、やっぱり生でお話しすること」という。お線香のかおり、境内を吹き渡る風。そうしたお寺の空気も含めた「体験」こそが、話の内容以上に意味があると考えるからだ。「配信する側は『動画では伝えきれない』と自覚しておくことが大切。しかし、現実にはお寺に来たくても来られない人がたくさんいます。どうしても会えない人に届けるためには画期的な手段。まだまだ足りないことだらけですが、1日1日一生懸命に、できるところまで積み重ねてゆきたいと思っています」

 小池さんの挑戦は始まったばかりだ。

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